今あなたの使っている入れ歯は「こんなものだ…」と諦めていませんか?
しかし、技術の進歩により入れ歯(義歯)は様々な進化をとげています。昔ながらの金属で固定する入れ歯以外にも、様々なものがあります。
きちんと噛めるかどうかは生活の質に直結します。そこで今回は、自分に合った入れ歯がどれなのか、がわかるようになって頂くことを目標にしています。ぜひ御覧ください。
「入れ歯」がなぜ使われやすいのか
歯を失った時、最初に頭に浮かぶのは入れ歯ではないでしょうか。
手術して人口の歯根を埋めるインプラントも一つの有効な選択肢です。
しかし、外科的なオペや人工物を顎の骨に埋めるのには抵抗がある方も多いですね。そのため入れ歯、あとはブリッジがメジャーな手段となっています。
しかし、
- ブリッジも周りの歯の状態によってはできないことがあります。
- 無くなった歯が多ければブリッジはできません。
なので、それが当てはまる場合、残された選択肢は入れ歯だけということになります。
動画で解説しています
Youtubeで動画でも解説しています、ぜひご覧ください。
入れ歯には様々な種類がある
ただ、入れ歯と言っても、健康保険でできる昔からの金属で引っ掛ける入れ歯だけではなく、他に多くの種類があるのを皆さんはご存知でしたか?
健康保険の入れ歯は、クラスプ義歯と呼ばれ、”保険がきく”という意味ではコスト的には一番お手頃です。
但しクラスプ義歯には構造上、多くの欠点があります。戦前からずっとバージョンアップせず、基本的な構造は改善されていません。
しかし、そんなクラスプ義歯の欠点を改良し、快適性の高い入れ歯があります。
そこで、この後から、現在日本の市場、そして世界市場に出ているほぼすべての入れ歯の種類と特徴をご説明させてください。
どの入れ歯があなたの今の義歯への不満を解決してくれるのか、この記事その判断のお役に立てば幸いです。
保険が効かないから…と頭から諦める前に、どれだけその価値があるかを知って頂き、改めて考えていただければと思います。
入れ歯でありがちな悩みとご不満
58歳のAさんは歯周病でぐらぐらになって下の奥歯2本がとうとう抜歯されました。
その後、健康保険で初めて入れ歯を作ってもらったそうです。
ところが思った以上にその入れ歯の違和感が強いので、ついつい外しがちになり、気づくと入れ歯を入れなくなってしまいました。
入歯を入れなくても歯がまったくないわけではなかったので、食べることはできます。噛める場所で何とか食べるようにして月日が経っていきました。
残っていたすぐ隣の歯がグラグラに
そのまま何年かしたある日、今度は残っていたすぐ隣の歯がグラグラになってきたのに気づいたのです。
歯医者に行くと、
「入れ歯を入れていなかったのですか?残された歯に負担がかかりすぎた結果、グラグラになったので、今度はその歯も持たない」
と言われ、また抜かれてしまいました。
さすがに奥歯が3本もない状態になりますと、食べにくくてしょうがありません。
どんどん悪くなる口の中
おまけに、食べるたびにきまった歯でばかり噛んでいたせいか、今度はそちら側の歯までも痛く感じるようになっていました。
しかも最近では物を噛むと、なんだか前歯だけ強く当たることも多くなってきて、顎を開けるたびに顎の付け根あたりが疲れやすく、がくがくする症状もでてきてしまいました。
どうにかしたい…と思ってみても、以前一度いれた、あの健康保険の入れ歯の違和感を思い出すと、またそれを使ってみようという気には到底なれなかったのです。
実はAさんはネットでいろいろと調べて、インプラント治療のことも考えました。
インプラントやブリッジは固定式なので、基本的には入れ歯とは言いません。
下顎の場合には、手術でインプラントの埋入のオペをしてから骨に根付いて上部構造が入って使えるまでに大体約4か月かかります。
インプラントに恐怖心がある
インプラントは外科的に歯茎の下の骨に穴をあけて埋め込む手術です。どうしても怖い感じがしました。
昔インプラントオペを受けた友人から、噛める場所が安定するまでに、時間とお金がかかったという話まで聞かされていたので、躊躇していたのです。
また、自分には持病もあり、内科のお医者さんから薬も出されているので、なるべくなら外科的なやり方はさけたかったのです。
その後は、何とかインプラント以外で、自分に満足のいく入れ歯はないものだろうか、とずっと悩んだまま結局何もせずに今に至っていた…というわけです。
このような例は実際にも多いのです
このようなAさんタイプの患者さん、これまでにも私の診療所には随分と多くいらっしゃいました。
皆同様にかつては健康保険のクラスプ入れ歯を1度は作っていれてみたものの、結局使わずじまいになった人たちだったのです。
「なぜ○○さんは、以前作った入れ歯をいれていないのですか?」
と理由を聞くと、
「たまたま家に外しておいてきてしまっただけです…」
とバツがわるそうに言われます。
でも実は普段は入れていないんだな…ということはプロがみればすぐにわかる嘘です。
入れ歯は体の一部として使えないと意味がないのですが…
入れ歯は、失ってしまった歯を補い、噛んで食事をできるようにするためのいわゆる「人工臓器」です。間で食事をすることができなければ、入れた意味がありません。
- Aさんのように、作った入れ歯を全く使っていない方
- いつも入れているのは嫌だけど、仕方なく食事の時だけ頑張って使っている方
- 食べにくいので「食べるときだけ外す」方
- 外出時に歯がないと、人から見えて嫌だから、出かける時だけは”我慢”している
本末転倒ではあるのですが…。
入れるべき入れ歯を入れないと、どうなるのか?
やがて残された歯に負担がかかりすぎてしわ寄せが必ずきます。そして残されていた歯が抜歯されていきます。
この悪循環を繰り返して、どんどん歯が減っていき、総入れ歯に近づいていく方がとても多いのです。歳のせいにしてあきらめている方もたくさん見てきました。
この負のスパイラルに陥ってしまうと、食べる楽しみをあきらめてしまったような、人生あきらめムードまでも起きてきてますます老けていきます。
歯を失う=歳をとる ということなのだから仕方ないことなのでしょうか?
30年も歯医者をやってきますと、そんな負のスパイラルへ転落していく人たちに多く遭遇してきました。
健康保険の入れ歯で皆さんからいただくご不満
そしてその人たちはみな、最初から健康保険の入れ歯しか知らず、やり方が一通りしかない、と諦めていた方たちでもあったのです。
健康保険の入れ歯で皆さんからいただくご不満は、ほぼ次の3つにまとめられます。
- 違和感があり、噛むとすれて痛いので硬いものが噛めない
- 支えている金属の金具などが目立ち、見た目がいやだ。
- 入れ歯を支えている歯への負担でぐらぐらしてきて、その歯がなくなるのが心配
その人の残された歯の本数、場所、支える歯の健康状態の違い、みな違います。
そしてその方の性格もあり、ここに挙げた1番目の項目だけが気になるという方、2番目や3番目のことまで気になるという方など受け止め方は様々なのです。
あなたは、この3つの理由のうち、どれが気になりますか?
本来入れ歯は噛むための道具です。そもそも噛めなくては意味がありません。
そのためには、入れ歯をいれて噛んだ時に、入れ歯が口の中で安定してぐらつかずに制御できているか、ということと関連しています。
我々はそのことをリジッドサポートと呼んでいます。
冒頭で出てきたAさんが、健康保険の入れ歯を初めて入れられたあと、結局使わなくなってしまった理由は2つありました。そこには構造上の限界が保険の義歯にはあったのに、その2つの理由がクリアできなかったからなのです。
2つの理由、一つは金属が見えるので悪見た目が悪い、そしてもう一つは、食べかすが入って違和感がある、です。
日本の健康保険で入れる虫歯は、海外では「仮義歯」扱い
皆さんは驚かれるかもしれませんが、残念ながら現在日本で普通に入れられている健康保険のクラスプ義歯は、なんとドイツにおいては仮義歯と言う位置づけなのです。
日本で歯が抜けたら入れられている健康保険のクラスプ義歯が、ドイツではあくまで最終的には別のしっかりとした最終義歯を入れる前段階の仮のものだということです。
ではドイツでは最終補綴物はほとんどが後述するダブル冠方式となっています。
残念ながら日本では健康保険制度でまだ採用されていません。
とはいえ、まずどんな入れ歯でも、入れ歯の構造として、しっかりと機能させるために必要な3つの原理があることをご理解いただく必要があるので、そこからご説明していきます。
そして、その原理の長所を強く取り入れた新しい考え方の義歯の説明や、欠点を無くすような素材などを使ってどのような方にそれぞれの義歯がおススメなのかということまで説明していきます。
「噛める」「安定する」使いやすい入れ歯の条件
入れ歯は、インプラントのように人工の歯根を植えるのと違い、周りの歯や粘膜を使って間接的に固定しなければなりません。
そのためには、維持、支持、把持の3つの要件が絶対に必要です。
- 維持とは、入れ歯をはずれないようにする働き
- 支持とは、入れ歯で噛んだ時の力をしっかりと受け止めて支える働き
- 把持とは、もぐもぐと食べ物を噛んだ時に入れ歯が横にずれないようにする働き
のことを言います。
そのどれもが入れ歯を快適に噛めるためには、なくてはならない要件です。
そしてさらにこの3つの原理原則に加えて、入れ歯の安定に影響を及ぼす3つの要因が
- 失った歯の場所
- 失った歯の本数
- 残された歯の健康状態
です。具体的には
- あなたの失ってしまった歯の場所が前の方か後ろの方か中間なのか
- あなたの失ってしまった歯の本数は多いのか少ないのか
- あなたに残されている歯の健康状態はぐらぐらではないのか
これら3つの原理原則と3つの要因をかけあわせて、その方に合わせた最終設計を考えていく為には絶対に必要な情報です。
入れ歯の最適設計は100人いたら100通り
残された歯の状態や、失った歯の数や場所は当然人によってみな違います。
ですので、本当は100人いたら100通りの入れ歯の設計があることになります。
そう考えると、入れ歯の設計や種類などは、たとえ歯を失った場所が同じだったとしても、本来は、人によってまったく異なった形になるべきなのです。
ところが、健康保険のクラスプ入れ歯の最大の欠点は、上の3つの要因はほぼ無視して設計が欠損部位の場所だけの条件できめられていて、ほぼ一通りしかないということなのです。
ですので、たまたま3つの要件がうまく当てはまった方ならいいのですが、そうでない方にはいろいろと不都合が生じ、それが不満の原因ともなってしまっているのです。
自分にあっていれば健康保険の入れ歯でも大丈夫
運よく3つの要件をクリアできている人は健康保険の義歯でも何の問題もなくお使いいただけているようです。
そして、健康保険以外の多くの入れ歯の特徴はこの3つの要件の欠点と長所のどこかをより強化改善して、その方のニーズにあわせようとしているのか、ということにつきます。
次の章ではまず健康保険の入れ歯を基本形と考えていただき、入れ歯の原理のご説明をします。
そのあと、健康保険の入れ歯のいろいろな欠点を改善した自費の入れ歯の特徴と値段についてご説明していきましょう。
種類別の入れ歯の作り・原理
1.健康保険のクラスプ義歯
仕組み
先に示したように、入れ歯に必要とされる3つの要件を満たすために、入れ歯には3つの構成要素があります。それに合わせて各パーツが存在します。
入れ歯を歯の無くなった歯茎に接する義歯床というピンク色の本体部分と失ってしまった歯の形をしている人工の歯の部分、そして、入れ歯自体をはずれないように維持してくれるクラスプという金属のバネ、入れ歯が沈み込まないようにする爪のようなレスト、その3つのパーツから出来上がっています。
固定方法
例えば、失った歯が少なくてその両脇に、まだ健康な歯が残っている場合には、その歯にクラスプをひとつずつ合計2か所引っかけるだけですみます。
もし後ろには引っかける歯がない場合には、入れ歯を安定させるためには残された手前の歯だけでは足りなくて、反対側の歯にまで金属を伸ばして応援を頼んで引っかけて入れ歯を設計する必要がでてきます。
さらにもっとたくさん歯を失った人は、すでに残されている歯が少ないので、義歯に必要とされる維持として使える歯をどれだけ参加させて負担させればよいのかが大きなポイントとなってきます。
維持する歯が少ないと、その歯への負担が大きくなりすぎて、クラスプで引っ掛けてる設計ですと、やがてその歯はぐらぐらとなり早期に失ってしまう危険も出てきます。
維持させる部分が少ないと、義歯が安定しなくて動きが出てそれだけ残された歯に負担がかかります。無理な設計になると必ずその反動が何らかの形で出てきて長期的に安定しないのです。。
このように、本当にしっかりと長期的に噛める義歯にしていくためには、先にご説明した義歯構成要素の3項目のどこか別の部分にその代わりをしてもらう場所や歯が必要となってくるということを絶えず設計の際に考えておかなくてはならないのです。
歯があまり残っていない場合は
歯が多く失ってしまった場合には、床と呼ばれるピンク色の歯茎を覆う部分の面積を広く設計することで、不足している維持と支持の力を分散させることが必要になるわけです。
但しそれと引き換えに、しなった場所を覆う違和感に関しては我慢していただく必要がでてくるということになります。
あっちをたてれば何らかの代償をしてそれを補ってやる必要があるということなのです。
総入れ歯はどうやって固定しているの?
究極の状態で、残っている歯が1本もない総入れ歯の場合は、維持、支持、把持すべてをこの床の部分だけで受け持つということになります。
総入れ歯ではひっかけておく歯もないのに、維持はどうして生まれるのか?と思いますよね。
その理由は、唾液を介在させるメニスカスの力があるから、ということになります。
いわゆる表面張力の力で、例えば、ガラスの板2枚を合わせた場合、くっつきませんが、水を一滴そこに垂らすことで2枚のガラスはピタッと吸い付くようになるのはどなたも知っているでしょう。
口の中には、唾液があるので、総入れ歯の方や、少ししか歯が残っていなくて、歯茎を床で多くおおわれている方の場合にはこの床に発生するメニスカスの力をも利用して維持させることができているわけです。
ですので、嫌でも総義歯の場合には口蓋をすべて覆うような面積の広さを要求されます。歯茎を広く覆われてしまうのがどうしてもいやだと言われると総義歯に関しては入れ歯としては作ることができないことになります。
というのは、床がなければ唯一残された維持も支持も把持もできないからです。
ですので、歯を多く無くされた方の中でも、義歯のピンク色の床の歯茎にカバーする感覚がどうしてもいやだといった方には、もはや人工歯根インプラント以外の選択肢はないと言えます。
総入れ歯が安定しない方へ
総入れ歯の方で、入れ歯がよく落ちてきて安定しない、という方の場合には、まず歯茎とピンク色の床の部分がぴったりと合っているのか、周りの部分が辺縁封鎖されているのかということを確かめたうえで、かみ合わせなども調整していく必要があります。
健康保険の入れ歯の欠点としてよく皆様からご指摘を受けるものに、
- 維持のためのクラスプの金属が見えていやだ
- 歯茎に接する床の部分が大きすぎるし厚さがあるので違和感がとても強い
- 硬いものをしっかりと噛めないし物がはさまりやすい
などがあげられています。これらの欠点を克服したいろいろな種類の自費の入れ歯があります。
次の章でそれぞれの自費の入れ歯がどんなものか具体例を挙げて説明していきます。
2.特殊樹脂でできた入れ歯「ノンクラスプデンチャー」
仕組み
維持となる金属のクラスプが柔軟性のある樹脂でできている入れ歯ということになります。
金属のクラスプを使わないので、ノンクラスプデンチャーとも呼ばれます。
樹脂でできたクラスプが、歯茎を歯の両方を挟んで覆うようにして入れ歯を維持させます。
覆うようにして挟み込むことから歯と入れ歯が一体化して外れにくくなるわけです。
また、金属は使っていないので、クラスプが見えて気になっていたには朗報ではないのでしょうか。
ノンクラスプデンチャーは使う樹脂の種類によって、各メーカーで硬さや耐久性が異なり、特徴としているようです。
値段は失った歯の部分の大きさにもよりますが、15万円~20万円です。
ノンクラスプデンチャーの種類
ノンクラスプデンチャーは、樹脂の種類でさらに大きく3つに分かれています。
ナイロン系、ポリエステル系、ポリカーボネート系の3つです。
それぞれ特徴がありますが、素材の硬さの点では
<やわらかい> ナイロン系➡ポリエステル系➡ポリカーボネイト系 <硬い>
となります。
長期的に健康保険のレジン床のプラスチックよりは耐久性がある素材だとメーカーはうたっていました。しかし実際入れたものを長年観察してみますと、当初言われていたほど長く使えるようなものではないということもわかってきました。
何年も使うことで確実に劣化の進み方が検証されていくからです。
5年程度で再度の型取りと作成をおすすめ
やがて年数がたつと、汚れてクラスプに相当する部分も劣化してきて、腕に相当する部分の挟む力がばかになってきて、恐らく5年くらいで型を取り直して、あたらしく乗り換えていく必要があるのかなと思われます。
飲み物のコーラでもメーカーでコカコーラとかペプシコーラなど名称が違うように、ノンクラスプデンチャーにもいろいろな名称を技工所が勝手に命名しているようです。
スマイルデンチャー、バルプラストデンチャー、エステショット、バイオトーン、等々(まだいくらでもありますが)、などと呼ばれています。
健康な歯がそれなりに残っていないと難しい
この入れ歯を使えるのは、主に、支持として使える健康な歯が残っている方で、しかも残されている歯が歯周病などでグラグラになっていない、という前提となります。
実は失った歯が多いかたの場合や、硬いものなどをがっちりと噛みたいと思っている方には、この素材だけで作られた入れ歯では素材がたわんでしまうので、不向きなのです。
実際、見た目だけが気になるということでノンクラスプデンチャーをいれてみたものの、硬いものがしっかりと噛めないので何とかしてほしいと言って当院にお越しになった方も過去大勢いらっしゃいました。
もしそういった方がノンクラスプデンチャーで入れたい場合にはあえて金属フレームを使った金属床にこのタイプの樹脂でできたノンクラスプデンチャーを併用させて作ることで解決できる場合があります。
柔らかい素材では力がかかるとたわんでしまい、支持と把持の力が弱くなっているからです。金属床を併用することでたわみにくい構造となります。
各歯牙には裏側から金属床を沿わせて把持の力を残されている歯全部に伝える事で、入れ歯全体がリジッドサポートとなり、ある程度硬いものも噛めるようになるからです。
3.本体が薄い金属でできている金属床義歯
仕組み
上顎に入れる入れ歯の場合、特に問題となってくるのは、口蓋を覆っているピンク色のプラスチックの床の面積からくる違和感です。
総義歯などの場合は、維持、支持、把持をすべて床の部分が一手に役を担っているために、口蓋を覆っている面積は減らすことができないのです。
そんな場合には、せめて厚みのあるプラスチックでなく、そこを極力薄い金属に変えることで違和感を減らせるという効果が多いに期待できます。
また、樹脂と違って、金属ですと清潔で丈夫なので、長期的にプラスチックがわれたりひびが入ったりしないという点ではかなり耐久性に優れています。
実際に使う金属は総義歯ではチタン、部分入れ歯の金属床ではコバルトクローム合金が強度的にかなり強く現時点ではこれらが多用されています。
金属床はリジッドサポートが強い
金属床の優れた特徴は、残された歯にしっかりと沿った金属フレームに加えて、維持となるクラスプが一体化していることで、やはり入れ歯と歯が一体化してリジッドサポートとなることからしっかりと噛める入れ歯となるわけです。
但し、クラスプの金属は見えてしまいますので、それが見えて嫌だという方には、その部分だけを、一つ前でご説明したノンクラスプデンチャーの素材としてコンビネーションで設計する方法もあります。
4.クッション素材が義歯の粘膜面となっている生体シリコーン義歯
仕組みと特徴
入れ歯が接する残された粘膜部分が固いプラスチックですとどうしても痛い…
という理由で入れたくなくなってしまう方がいます。
理由は、粘膜の下にある骨が均一でないために、上からの噛む圧力がかかった時に歯茎の下のその骨の突き出たところが痛かったり擦れたりしやすいということです。
そのために粘膜に接する部分を柔らかいクッション材を使うことで解決しようと考えられたものです。
このクッション材は、生体シリコーン素材はいろいろとありますが、自社ブランドとして独自に特許をとっている技工会社もあります。
洗浄剤のランニングコストが難点
生体シリコーンは素材として耐久性に弱いものが多いので長期的に同じものとして使い続けられるようにするためには、毎日の御手入れと専用の洗浄液が必須となってくるようです。
その為の専用洗浄剤のランニングコストも維持費用の一部として考えていく必要があります。
クッション素材を使うことで噛むときにかなり大きな力をかけられるようになるために、その芯となる骨組みの部分には金属床が必須となります。プラスチック素材だけですと必ずと言っていいほど、早期に破折してしまうからです。
従って生体シリコーン義歯を希望される際には、金属床+生体シリコーン義歯の組み合わせとして作ることになるために、費用は金属床だけの値段よりも高価になります。
5.テレスコープタイプの義歯
仕組みと特徴
入れ歯の維持に使うクラスプは、維持として使われるその歯に対して、必ず負荷をかけています。
歯にとって、もっとも有害とされる横揺れの力が、クラスプを使った入れ歯には、入れ歯をはずすときと入れるときにかならず発生しています。
その結果、クラスプ義歯で、維持歯として使われている歯の多くは、やがてグラグラとなって、いずれ抜歯されるといったリスクが高くなることになります。
維持していた歯が抜歯された場合、今度は別の歯に引っ掛けることになるので次に入れる入れ歯はそこを埋めるようにしてさらに以前のものよりも一回り大きくなっていくこととなります。
この繰り返しで、残された歯がどんどん失われてしまう…という負のシナリオが健康保険のクラスプ義歯を入れられた方によくありがちなストーリでした。
残された歯になるべく負担をかけない
そこで、残された歯になるべく負担をかけないようにしながら維持として参加させるにはどうすればよいのか。
クラスプに代わる維持装置はないのか、ということがドイツでは昔から研究されていました。
歯にはもともと横から揺らされる力には非常に弱いといった欠点があります。
我々は歯を抜く際に、そのようにして揺らして抜歯するくらいですから。
しかし一方では上からの力、つまり支持として上からかかる力に対しては強いという性質もあるのです。
そこで、取り外しの際に維持に負担がかからないように参加させたいのであれば、その歯に対して、上下の一方向の力だけかかるようなシリンダーの形態に加工してやればいいのではないかということがわかったのです。
クラスプ義歯は歯に対して横にねじってはずすのに対して、上下の着脱方向だけで外せるようにするなら、維持歯は歯にとって有害な側方圧から守られるわけです。
そのような研究結果がドイツで行われ、これがテレスコープ義歯と呼ばれる特殊義歯誕生の背景となりました。
現在ではクラスプ義歯はドイツでは仮義歯としての位置づけで、最終補綴物としてしっかりと噛める義歯はこのダブル冠方式の義歯となっているのです
日本では残念ながらクラスプ義歯しか健康保険で採用されていないのが現状です。
良いとわかっていながらも、まだまだこのタイプのテレスコープ義歯の恩恵を受けられない方が多いのは残念なことです。
シリンダー状態に歯にかぶせるものが、昔、海賊が使っていたテレスコープ(一本の長い眼鏡)に似ていることから、テレスコープ義歯という命名がされたようです。
維持として使う歯を削って加工して、茶筒の様な形態のかぶせ物内冠をかぶせてセットしておき、それにぴったりとフィットするいわば茶筒の外蓋のようなイメージである外冠を作り、着脱可能なダブル冠を作り、それを外冠としてつなげて一体化させた構造となっています。
参加させる歯がすべて筒状ですので、義歯の着脱時や、咬合時に、一方向つまり上下からしか力が加わりません。
それによって維持となる歯にとっては横揺れの有害な要素が軽減され、長期的にも守られた形で義歯の維持歯として参加させることができるようになるというわけです。
その結果、横揺れの力をおさえる把持効果、上下の力を受ける支持の効果も同時に手に入れることができたわけです。
支持効果と把持効果がダブル冠方式で手に入れられたのはいいのですが、維持をどうするかという問題が残されます。
内冠と外冠の維持をどうやって作り出すかということが問題でした。
この維持の仕方でテレスコープでも種類が多く分かれていきます。
テレスコープタイプには発展の歴史と、様々な種類が
コーヌステレスコープ義歯
ごくごく初期段階のテレスコープ義歯は、コーヌステレスコープでした。
この義歯は内外冠に一定のくさび効果を期待させて維持させる方法として設計されていました。
このコーヌステレスコープは内冠と外冠の角度が7°前後で、外冠が内冠に食い込むくさび効果が最大限発揮されるということで、シリンダーの角度をそのように加工して設計していました。
ところが、くさび効果が強すぎると維持する力が強すぎるために取り外しの際に支台歯が破折したりするといった弊害が出てくるようになりました。
また、この方法だと、支台となる歯が歯周病などで最初から弱っている歯ですと負担がかりすぎるということで、基本的には健康な状態の歯だけが維持歯として参加可能だったのです。
とはいへ、そもそも抜かれた歯が何本もあるような口腔内の状況の方は、他の歯も基本的には歯周病になってしまっていることが多いものです。
ところが、コーヌステレスコープ義歯の適応症例は歯周病に罹患していない健全な支台歯が条件だったわけです。
この支台歯の要件である健康状態の良い歯という条件を無視して、形だけ安直にコーヌステレスコープ義歯を入れてしまう症例が世の中で多くなった結果、思った以上に長い間使えなかったという失敗症例の弊害が多く出てきてしまったのです。
そして思ったよりも長持ちしないじゃないか…という誤解が生まれ、コーヌステレスコープは急速に衰退していきました。
リーゲルテレスコープ
その後、コーヌステレスコープ義歯のように内外冠の摩擦をきつすぎる状態ではなくして、簡単に外れるくらいにゆるく作っておいて、その代わりに、別に取れないように維持する装置を閂(カンヌキ)構造にして内蔵させようというものがでてきました。
これですと維持の調整が可能で、基本的に歯周病に多少なっている歯でも負担がかからないという点で、安定して使えるようになったというわけです。
これがリーゲルテレスコープといって、かなり精密に作られた留め金を鋳込んでオーダーメイドで作ってその留め金を開けることで簡単に着脱ができるようになるというタイプのものです。
リーゲルの良さは基本的に維持のコントロールがゼロか100%といった確実でしかも着脱時のストレスは全くないといったすぐれものでした。
回転リーゲル、旋回リーゲル
回転リーゲル、旋回リーゲルと呼ばれるのがそれで、まさに精密巧緻な技工士の仕事で、ある意味部分入れ歯の中では最高峰ともいわれる精密さを要求される入れ歯でした。
さすがドイツのお国柄とでも言いましょうか。
今でも一部では作られていますが、最近ではこの技工ができる技工士さんがなかなか少なくなってきた結果、技工料金が跳ね上がり、残念ながら減少方向にあるようです。
欠点はといえば、この閂構造が入れ歯の本体に小さく内蔵されているために、外す方の手の器用さが要求されることです。
ガルバタイプのテレスコープ義歯
その後、このはずすときの維持装置のわずらわしさを解消すべく、テレスコープタイプでありながら、なるべくシンプルに維持を作り出すことができないか、ということで、内外冠のフィットを精密な金メッキでつくり、表面張力の力だけを利用して維持させようとするガルバタイプのテレスコープ義歯というのがでてきました。(AGCテレスコープデンチャー)
削られた支台歯にジルコニアでできた内冠をCAD/CAMの技術でまず作ります。
内冠に24K加工電解蒸着で
精密にフィットするようにシリンダー状の24金フレームを作ります。
この上から義歯本体のフレームの形をワックスで作ります。
その後このワックスをCAD/CAMの光学印象で読み込んでジルコニアフレームを削って作りだします
外冠と一体化した義歯のフレームもジルコニアで作られており、先ほどの24Kの内面を外冠フレームに接着して完成されます。
内面は24金の薄い皮膜状のフレームが内冠と精密に接する形になります。
このタイプのテレスコープ義歯の場合は
唾液が無ければ基本的に着脱は緩いのですが、唾液がそこに介在することでメニスカスの力(表面張力)が作用して内外冠に維持の力が発生するという仕組みのものです。
一番最初に世に出た昔のコーヌステレスコープとは形こそ似ていますが全く維持の機構が異なったものとなっています。
上の図ではテレスコープの内冠と外冠の断面図として示しています。
水色の部分は唾液(水分)でこれがない場合には、維持力が強く発生しません。
その他に維持させる方法として、技工所やメーカーによって工夫されたものが数多く出ていますが、ピーク材、ソフトアタッチメント(ポリウレタン)、などを外冠に内蔵させたものを使って維持させるものも供給されています。
それぞれ、ソフトアタッチメントテレスコープ、ピーク材アタッチメントテレスコープ、などと呼ばれています。
基本的には、外すときには一方向に強く上に持ち上げるだけ、という方法ですので、どなたにも使いやすいシンプルな構造となっています。
さしずめ取り外しのできるブリッジといった感覚です。
ブリッジは基本的にはセメントでつけてしまう固定タイプです。
全体のアーチを結ぶブリッジのどこかの歯にもしトラブルが生じた場合に、とりはずしができるのであれば、またすべて壊して作り直すといったかなり大きな負担をしなくて済むようになります。
失った歯の場所、本数はその人その人によって様々です。
そのうえ、残されている健康な歯の状態も少なくなってきて、歯周病も進んでグラグラの歯がたくさん残っている方も結構いらっしゃいます。
グラグラの歯がたくさん残っている方にも向いている
このような場合にこそ、すべての歯を一つのアーチととらえて、一体化してつなげるテレスコープ義歯を設計することで、今までのクラスプ義歯では克服できなかった様々な欠点をほとんど解決できるようになってきたのです。
1例として上下ともに歯が歯周病で抜かれて、残された歯も少なくなってきたご高齢の方の例を挙げてみましょう。
この方はどうしてもクラスプタイプの義歯では、しっかりとモノをかむことができない上に残された歯もクラスプに引っ掛けられているために、どんどんぐらついてくるのが不安で当院にご相談に来られました。
最終的には歯がまったくなくなった総義歯になるのを待つしかないのでしょうか?と。
確かにとびとびに歯が抜けている場所が多くあるために、もはやブリッジなどのセメントで固定するタイプは無理です。
さらにご高齢でもあり、もはやインプラントなどの外科的な処置は希望されませんでした。
治療は残された歯をすべて動員してそこの部分に内冠をかぶせて全体をフルアーチで結んだテレスコープ義歯とした例です。
義歯を入れてしまうとフルアーチで残されたグラグラの歯も固定されて安全な状態となります。そのためにとても固いものもよくかめるし、すべての歯がつながっている状態なだけなので、通常の入れ歯のような違和感はほとんどありません。
万が一この中のグラグラの歯でどうしても抜かなくてはいけない状態が将来的に生じても、入れ歯を外してそこの歯の部分だけを抜いて、入れ歯のほうは、空いた歯の部分を樹脂などで埋めてしまえばそのまま何もなかったように義歯を使い続けることができるわけです。
また取り外しができることから歯を洗う時には手もとで洗え、内冠の入っている歯の方も解放されるためにとても簡単で清潔に清掃しやすい状態となります。当然歯間ブラシなどは必要ありません。
夢のような義歯ではありますが、内冠、外冠フルアーチで作るために高額なものとなります。
大体外冠だけでも上ないし下どちらも歯は14本あります。外冠は1本が15万円くらいします。さらにこれに残った歯には内冠が必要となります。この内冠と外冠の金額を足し合わせたものがこのタイプの義歯の値段となりますので、高額なのが唯一の欠点といえます
4.マグネットデンチャー
義歯の維持にマグネットを使ったタイプです。
残された歯の根っこの部分に金属と義歯の側に生体磁性アタッチメントが内蔵されていて其磁石の力で入れ歯の維持をします。
地磁気の影響で経年変化で磁力が落ちてきますのでそうなった場合には入れ歯側の磁石を乗り換えればまた維持力は回復します。
ただし、MRIなどをとる方の場合には画像に影響が出るために外す必要があります。
上顎の残った歯4本に磁性アタッチメントをセットした症例です。
よく噛めるために金属床で補強しないとプラスチックだけでは割れてしまうことが多いために、金属床とマグネットアタッチメント代が必要となります。
5.アタッチメント併用のインプラント義歯(オールオン4など)
インプラントをつかった義歯もあります。
この場合の特徴はすべての支持と維持をインプラントだけで完結させるという考え方となります。
その為にかなり硬いものが噛め、噛んだ感触が骨に伝わってきますので食事も制約なく何でも食べられるので快適なものとなります。
その代わり土台となって機能させるインプラントは最低でも4本が必要となります。
いすや机の脚と同じと考えていただければいいと思います。
必要なインプラントが4本であることから、All On 4という言い方をしています。
インプラントでの支持、そしてそれが取れないようにするためのアタッチメント、そして義歯症本体と3つのパーツから構成されています。
力をかなりかけるので基本的にはフレームは金属床でなければいけません。
また、長年総義歯で苦労されていた方にはまるで嘘のように噛める状態となりますが、そもそも前提条件として歯茎の下の骨がしっかりと残っている方だけが適応となります。
インプラント体をそもそも埋入できる必要があるのと上部構造として維持させることができるためにそれなりの力に耐えられる必要があるからです。
ロケーターアタッチメントが装着された状態
下顎に4本のインプラントが入っていてロケーターアタッチメントが装着された状態
義歯をはずした下顎の例
4本のインプラント以外に根っこだけ残された状態で置いてある自分の歯の残根が2本あります。
下顎のオールオン4の義歯の表と裏の状態
入れようとしているところです。基本的にはただパチンと押し込んでいただけばよいだけです
インプラント代+金属床代+アタッチメント代となるために高価な義歯となりますが、残念なことに、お金はあるが、骨がない!のであきらめざるを得なかった方もいらっしゃいました。インプラントは残っている歯茎の下の骨の量が十分でないと無理な場合は結構あるのです。
終わりに
長くなりましたが、今は様々な種類の義歯があり、自分にあったものを使えばとても快適に暮らすことができます。高いから健康保険内と決めつけてしまうと、その後辛いことが多く、生活の質も落ちてしまいます。
まずは、ご要望をご相談いただければさいわいです。
歯の治療は、一般的な内科治療などと少し違いがあります。それは「同じ箇所の治療でも、やり方がたくさんある」ということ。例えば、1つの虫歯を治すだけでも「治療方法」「使う材料」「制作方法」がたくさんあります。選択を誤ると、思わぬ苦労や想像していなかった悩みを抱えてしまうことも、少なくありません。
当院では、みなさまに安心と満足の生活を得て頂くことを目標に、皆様の立場に立った治療を心がけています。お気軽にお越し下さい。