テレスコープタイプの義歯の種類と詳細
レジリエンツテレスコープ義歯製作の流れ
残っているすべての元の歯を一回り削って加工します。
削った歯の型をとって、それをもとに技工所でテーパーのついたシリンダー状の内冠をつくります。
内冠は金属やジルコニアで作られ支台歯にはセメントで合着します。
内冠と超精密に嵌合するように、薄い皮膜一層分だけ空隙を残して技工所で作って仕上げます。
外冠の内面には金やピーク材などの勘合力を生み出しやすい素材を一層いれます。茶筒の本体とフタの関係と似ています。
外冠は患者さんが自分で着脱方向をさだめて、簡単に取り外せるものとなっており、脱着時、支台の歯根に無理な為害性のある側方力がかからないのが特徴です。
内冠と外冠が超精密で均一な隙間でできているために、その間に発生する表面張力(メニスカスの力)のおかげで適度な維持力が生まれます。水分(唾液)のない状態化にあっては維持力が発生しませんので、歯にとって負担過重となるような無理な維持力は発生しません。
レジリエンツテレスコープ義歯が向いているケース
基本的には歯槽膿漏症などで、すでに何本もあるぐらついているような、状態があまり良くない歯も含めてすべて一緒に支台歯として参加させることができます。
こうすることで、最終補綴物の形態を限りなくシンプルにすることが可能となり、一方ではぐらぐらしている歯に対しては、固定効果が得られて長期的な延命対策にもなる訳です。
形はよく似ていますが、昔登場したことのあるコーヌステレスコープ義歯といって楔効果を維持力として内外冠の嵌合維持力を作っていたタイプの補綴物がありましたが、このタイプの補綴物につきものの最大の欠点、つまり、弱ってしまった歯には使えない、ということがなくなりました。
むしろ、弱ってしまった歯だからこそ固定効果を求めてレジリエンツテレスコープ義歯にすることをお勧めします。
さらには、レジリエンツテレスコープ義歯が装着された後で、どうしても具合の悪い歯を抜歯することになっても、外冠の部分だけを樹脂で埋めてしまって、抜歯したことを気にせずにいままでの補綴物をそのまま使い続けられるといったメリットもあります。
どのような方にこの治療方法が適しているかといいますと…
- 歯槽膿漏が進んできた状態で全体的に不安定な歯が多数ある場合
- 抜けてしまった歯が多数あり、健康保険の取り外し式の義歯では違和感があって装着になじめない方
- 長期的に同じもので、その期間なるべく快適に過ごしていきたい方
などです。当医院にてはこのタイプのテレスコープ義歯には過去200症例以上の実績があります。それら高度な義歯を作ることのできるよう、提携技工所も品質、精度は世界最高水準のブランドです。
このラボは空輸で各国からの技工物の依頼もうけている名門であるがゆえに、技工の納期も他よりかなり長くかかってしまうのが唯一の欠点です。
テレスコープ義歯の装着風景
ご自身の指で内冠がかぶせられているご自分の歯に、外冠の一体化した義歯を装着しようとしているところです。脱着は簡単で、しかも人前で義歯をはずさなければ絶対に義歯とはわからないところがすごいところです。
また、それまで単独の歯では歯周病が進んでしまっていて硬いものが噛めなかったのが、この義歯を装着することで、すべてがガードされ、しかも、弱っている、残された歯を気にすることなく硬いものをかめるようになるという、この感覚は、入れた方でなければおわかりいただけないものです。長年、クラスプ義歯と歯周病で弱り切った歯への悩みをおもちのかたへの解決の第一歩と言えましょう。
左は、義歯をはずしたものを裏側からお見せしています。
残されたご自分の歯が歯周病でぐらぐらとなっていても、全体が一体化しており、結果的にその歯は守られているのがおわかり頂けると思います。
健康保険の義歯につきものの銀色の見栄えの悪い歯に引っ掛けるクラスプや、違和感の一番原因となっている咬合床の粘膜を覆う部分がほとんどないのがお分かり頂けるでしょうか。
とにかくいたってシンプルにできています。
54歳女性 上顎
両側の奥歯が5本ない方のテレスコープ義歯の例です。
前歯の出歯も気にされており、前歯の出歯も気にされていましたので、一体化した全額のアーチのテレスコープ義歯として前歯の形態も改善した例です。通常奥歯が両側ともにない場合、インプラントが適応となることも多いのですが、この方の場合、上顎洞までの骨が少なく、インプラントオペはできない例でした。結果は見た目噛み心地ともに良好となりました。
もしこの方の場合、健康保険の義歯での設計となると、どうしても奥の口蓋の部分を渡す金属バーないしはプラスティックの大きな床が覆うこととなり、かなり違和感が強いものとなります。
また、両脇に残された歯にクラスプというワイヤーが引っ掛かる設計となり、食事のたびに揺れたり動いたりするといった不都合が生じやすくなるために、食物残差がピンク色の床の部分にたまりやすくなるといった不都合が生じやすいのも事実です。
それに対して、このテレスコープ義歯の利点は、基本的に食事中義歯が動かないのので硬いものでも噛みやすく、安定しているために食物残差が入り込みにくく、違和感なく食事ができるということになります。
メンテナンスとしては、1日に1回くらいは外して、内面をよく清掃していただくだけでかまいません。
外した時に、ご自身の歯の内冠の際の部分は解放されとても磨きやすい環境となり、清潔に保ちやすいといった利点もあります。夜間も当然口に入れてお休みいただきます。
内冠と外冠は超精密に勘合しているために、洗う際に落として洗面台の端にあたってしまうと変形してはいらなくなってしまう心配があるので、洗浄する際は慎重に丁寧にという点だけはご注意いただきます。
5年以上使用時にはずれやすくなる感じがしてきた場合には、外冠の内面のピーク材をいれかえるだけで勘合力は復活します。なお、欠損が多く粘膜の多い場合には加齢変化での歯肉の退縮に合わせて、そのピンク色の内面の部分を裏打ちしていくことで、維持力は変わらない状態を保てます。
74歳の方のテレスコープ義歯 治療例
治療前の状態
この方は、もともとは上下とも引っ掛ける健康保険のクラスプタイプの義歯をお使いになられていましたが、違和感が強く、ご自宅にいらっしゃるときにはほとんどいつもはずしっぱなしとのことでした。
かなり状態のよくない歯が多かったので、セメントでつけてしまう完全固定式のブリッジのような設計にはできないのと、ご高齢で外科的なインプラント治療は希望されなかったので、可撤式でしかも装着感はブリッジとほとんどかわらないエレクトロフォーミングタイプのテレスコープ義歯の設計で治療を進めることにしました。
治療後の状態
治療後は違和感なく何でも召上ることができるようになり、基本的には残存歯のクリーニングと、すりへりによるかみ合わせの変化の微調整だけで、4-6か月に一回程度メンテナンスでおこし頂くだけです。
全体でしっかりとかめるようになったことで、なんでも召し上がれるようになり、脳への血流もよくなられたせいか、とてもお元気になりご家族の方からも大変喜ばれました。抗加齢効果や認知症予防効果にも大いに期待できます。
様々な設計と金額について
それではつぎに、実際の例でいろいろなやり方をした場合の設計と金額がどうなるかを比較しながら考えていきましょう。
ヒトの上と下の歯は通常14本ずつの歯がありU字型のアーチで構成されています。
いろいろな理由で抜歯されてしまって、歯がない部分ができてしまった場合、
- インプラントという人工の歯の根を埋めて補う
- ブリッジといって、両隣に残っている歯を支えとして固定して補う
- クラスプという針金のような金属で取り外しのできる義歯をいれる
どれかになります。
ここで、考慮しなくてはいけない大きな問題として、歯槽膿漏症などで、抜歯されてしまった歯のない部分と、歯は残ってはいるものの、ぐらぐらで抜けそうな歯である部分、など様々な部分が混在している場合がほとんどだということです。
(ここでは50歳で仮に上顎に6本の歯が残っている方を例に考えてみましょう)
正常な歯列の状態
もともと正常な歯列では上顎下顎ともに歯は14本あります
現在残っている歯(6本)
歯槽膿漏や虫歯がすすんでしまって、あるいは歯根破折してしまい抜歯された状態。とびとびに歯が残っています。
この状態では、たいていの場合、残された歯もかなり歯槽膿漏が進んでいることが多く、それぞれが健康な状態の歯として残っている場合はむしろ珍しいことの方が多い(図では歯が6本残存している例)
このような場合、歯のないところにただインプラントだけを入れても、今まで残っている自分の弱ってしまっている歯の部分はぐらぐらのままということになります。
結果的には左右前後でバランスよく噛むことのできない状態が生じてしまうことが非常に多いのです。高い金額をかけてインプラントを入れたのに左右でうまく噛めなかったりするのは、こういったアンバランスがあることがほとんどです。
また、保険のクラスプ義歯の場合、たとえ残っている歯が歯槽膿漏で弱っていたとしても、そこの歯にささえて引っ掛けてもらわねばならず、長期的にはその歯も抜歯されていずれは総入れ歯となってしまう場合が通常のようです。
もしどうしても残っている歯が少ない場合には、土台として最小限のインプラントを併用したタイプにする場合もあります。次に各種治療設計を比較しましょう。
各種設計方針の比較
設計方針の違いにより、形態、治療費用、装着感、審美性、長期的安定性などすべて異なってきます。
健康保険の義歯の設計
残っている歯にクラスプと呼ばれる金属のワイヤーでひっかけて維持します。
残っている歯茎に義歯床と呼ばれるプラスティック状のプレートが覆うので、味覚が感じ取りにくいのと、かなりの違和感があるのは否めません。
また着脱時に残っている歯に対して、かなり負担を強いてしまうのと、その歯が高率に虫歯になりやすい欠点があります。健康保険の窓口負担金(1-2万円)ですみます。
インプラントの場合の設計
抜けてしまった部分だけにインプラントを埋入手術します。何でも硬いものも食べられます。
歯を支える骨がない場合には手術はできないのと、上顎の場合には骨につくまでに約5か月間を要します。内科的な疾患がある場合や喫煙がある場合にはできません。
自費治療となり一か所45万円かかります。欠損部位は8か所ですので合計360万円かかります。(CT検査費用等は別途かかります)
テレスコープ義歯の設計
残っている歯をすべて動員して加工します。その際、残っている歯に内冠をかぶせてさらにそれにあわせて外冠と一体化した頑丈な可撤式の義歯ができます。何でも硬いものが食べられます。
自費治療となり、左の欠損症例の場合の例では
内冠6本×12万円(Co-Cr合金の場合)、外冠6本×15万円(セラミック前装の場合)、ダミーの歯8本×11万円、ピーク材6か所×2万円、補強金属1か所:20万円 → 合計252万円となります
片側の奥歯が抜けて支える歯がないテレスコープ義歯の例
一番奥にささえることのできる歯がない場合、ブリッジのような固定式の補綴物(ほてつぶつ)はできません。健康保険の義歯の場合には、たった2本分の失った歯を補うのに、引っかける歯として何箇所にも針金状の金属が口の中を占領してしまう…そして違和感がその最大の敵となります。こういった場合にはやはりインプラント治療(後述)は一番違和感がなくおすすめといえます。
しかしながら、どうしても外科的な手術が怖いといった方には、下のようにテレスコープタイプの義歯にして、すっきりとした形でまとめることができます。
着脱しようとしているところ(そのまますっとおしこむだけです)
この義歯の場合の臨床価格
- 内冠(ゴールド金属) 12万円×2本
- 外冠(ゴールド合金) 15万円×2本
- 義歯床 10万円
- 維持装置ソフトアタッチメント5万円×2
合計 74万円 となります
義歯がいったんお口にはいってしまえば、ずれたり動いたりしません。
それに、従来の義歯にみられるような金属の爪であるクラスプがみえないので審美的にも良好なのがおわかりいただけると思います。
(但し2本の歯は削って加工する必要があります)
特殊樹脂を利用したノンクラスプデンチャーの詳細
通常の取り外しのできる義歯は、クラスプという支えるために金属の維持装置がつきものです。しかし、この金属部分は見た目にはあまりかっこいいものではありませんし、老けた感じがします。
これを特殊な樹脂により、金属部分をなくしたタイプの義歯ができるようになりました。(バイオトーン、バルプラスト、エステショットなどの製品名があります)
これは維持する部分に、スーパーポリアミド樹脂という通常外科の縫合糸などにも使用されている丈夫でいくら折り曲げても折れにくいという性質をもつ素材を使うことで可能になりました。
フィット感が良く人体にやさしい素材のためアレルギーの心配がなく見た目にも金属色でないために審美的であるという利点があります。
柔軟性のある素材が歯の豊隆をのりこえて
ヌルっとした感じで歯の下の部分に収まり義歯を維持してくれます。
金属床併用タイプのノンクラスプデンチャーの例
噛んだ時の安定性を重視するためにフレーム本体の部分はあえて金属床で剛性を確保して見える部分だけをこの特殊樹脂を使うという手法が最近のノンクラスプ義歯の設計法としてはトレンドになってきています。
(上の金属床併用タイプのノンクラスプデンチャーの臨床価格はチタン金属床フレーム 60万円と合わせて合計80万円です。金属床でないノンクラスプ義歯のみの場合は20万円です)
歯の治療は、一般的な内科治療などと少し違いがあります。それは「同じ箇所の治療でも、やり方がたくさんある」ということ。例えば、1つの虫歯を治すだけでも「治療方法」「使う材料」「制作方法」がたくさんあります。選択を誤ると、思わぬ苦労や想像していなかった悩みを抱えてしまうことも、少なくありません。
当院では、みなさまに安心と満足の生活を得て頂くことを目標に、皆様の立場に立った治療を心がけています。お気軽にお越し下さい。