健康保険でできる治療と保険のきかない自費治療との違いは、値段が違う以外にも様々にあります。
具体的に一体どこが違うのでしょうか?
どのように違うかを、具体的な臨床例からお話させていただきます。
結論から申し上げますと、例えとしては不適当かもしれませんが、その人の足回りを採寸して木型からつくったオーダーメードの靴と、サイズのみ合う既製品の靴との違いのようなものです。
歯という物は、個人個人で形が異なります。毎日休むことなく過酷な状況下でしかも一生使う大切な部分ですので、私達は「人工臓器」だと考えて取り組んでいます。
その部分をどうするのか、その精度が費用に反映される、と考え頂くのが良いかもしれません。
ここでは代表的な「4つの違い」についてお伝えさせて頂きます。ぜひご検討の材料にして下さい。
違い1:適合精度や安定性
使われる材料の性質により隙間の違いが目立ってきます。下の画像の矢印の部分がそうです。
このすきまがあればあるほど、長期的にはそこから再度虫歯になる=「2次カリエス」になることが多いので、なるべく隙間のない適合のよい材料を使うほうがよいのです。
そして、保険で使われる銀歯と比べると、プラチナ、ゴールドや、ジルコニア、セラミックの方がより適合がずっとよいのです。
特にジルコニアは、プラークが沈着しにくいのでプラークが付きにくく清潔に保てます。
なので、制度上のしばりにとらわれない良質な素材で治す意味、保険治療の素材だけでは限界がある根拠の1つがここにあります。
ここが、御自分の歯を守るかをこだわっていただける場合には、考えてもよいひとつの目安にはなるかと思います。
実際の臨床上では素材の問題が長期的にどのような結果をもたらしてしまったのかを以下の実例でご紹介いたします。
保険内の銀歯で起きた問題の実例
健康保険で入れてある銀歯がしみる…とのことで来院されたので調べると
探針がひっかかるのでそのまま力をかけてみると、銀歯はポロリととれてしまいました.
歯茎に近い銀歯の境目の部分にご注目ください。
そこは象牙質が酸化黒変して、いわゆる虫歯が進行していたのがわかります.
この歯はこのあと、残念ながら神経をとられて、全部かぶせられるクラウンという補綴物になってしまいました。
一度治した銀歯のやり直しが多い理由の一つにこうした素材の限界があるという事実をよくご理解いただいたうえで、健康保険の銀歯を入れる場合には、口腔ケアの徹底をより一層されることを強くお勧めします。
健康保険の銀歯の欠点
- 銀歯はイオンの影響でプラークが寄ってきやすくなる結果、辺縁歯肉に炎症を惹起しやすい環境をつくりやすい。
- Agは硫化するのでPg菌と呼ばれる歯周病悪玉細菌が発生しやすく、硫化水素で黒変し、口臭を発する大きな原因にもなる
- 酸化黒変部分はアレルギーを助長して掌蹠膿疱症を引き起こしやすい
- 銀歯は携帯電話やパソコンの電磁波での影響で「コヒーラ現象」をひきおこし心身に悪影響を及ぼしやすい
- 銀歯はAgイオンの影響で辺縁歯肉にメタルタトゥーを引き起こしやすい
違い2:長期的な安定度
歯の中にいれた非金属である銀合金の土台は、歯の表面から通じる細い管(象牙細管)を通じて入ってくる水分によって、金属の種類によっては少しずつさびて腐食されていくことになります。
そうすると、さびて溶け出した金属のイオンが歯の細い管のなかに入り込んで、そこで歯をもろくしてしまいます。
それによって根が折れてしまったり、再治療が不可能になり、抜歯せざるをえなくなることがあります。
また歯の土台はかぶせてある冠をはずすのと違い、歯の中に深く入っていますので、はずそうとすると、どうしても根の壁をいためてしまいます。
ですから、できるだけ土台だけでもさびずに長持ちする素材にしておいたほうが、歯の寿命は明らかに延ばすことができるといえます。
また、削る際に飛び散る金属の粉が歯茎の中に入り込むことにより、歯の周辺の歯茎が黒く変色してしまうことがあるなどの、不都合が報告されています.
前歯のかぶせ物の境目が黒くなって来院された例
前歯のかぶせ物の境目が黒くなっているのが見苦しいと言うことで来院された例です。
この方の前歯に健康保険のレジン前装冠という銀合金をベースにした金属にプラスティックを貼り付けてあるかぶせ物と銀合金の土台が入っていました。
入れられた当初はなんでもなかったのが経年変化で継ぎ目が黒く変色しているのがわかります。
土台の銀合金とかぶせ物の銀合金やパラジウム合金のイオンの色がしみでてきて黒く見苦しくさせているのがお分かりいただけると思います。
入れた当初はこんなことは予想もつかなかったと思われるかもしれませんがそうなってしまってからでは遅いのです。
健康保険の銀の土台だと何年か経つと酸化して黒くなってきて酸化銀イオンの影響で歯質を黒くもろくしてしまいますが、すぐにはわかりません。
その結果いずれ歯根破折したり、そこから腐食してむし歯が進んだり、かぶせ物が取れたりしやすくなってしまいます。
そのときには、再びやり替えるか、それが無理な場合には抜歯になってしまいます。長い目で見て考えた時には、素材をしっかりと見極めておくことが重要です。
酸化した銀の土台がとれたあと残された歯
酸化銀イオンの影響で黒変しているのがわかります
止む無く抜歯されましたが、歯の方にひびがはいっているのがわかります。
また、とれてしまった銀歯の方も酸化黒変しているのがわかります
新しい手法「ファイバーコアポストシステム」
最近ではグラスファイバーの繊維と高強度レジンマトリックスとの組み合わせによるファイバーコアポストシステムが登場しております。
このシステムの優れた点はファイバーコアポストの屈曲係数が金属製ポストに比べてはるかに象牙質に近似しているところです。
歯牙のたわみに応じて屈曲しながら応力の開放を助けるので、歯根破折の可能性が金属のそれに比べてかなり減ることになります。
また、金属のように腐食酸化しませんのでイオンが染み出てくる心配もなく安定しています。
- 象牙質の弾性係数=18.6Gpa
- ファイバーコアポストの弾性係数=29.2Gpa
- 金属性(チタン)ポストの弾性係数=90.3Gpa
ジルコニアファイバーコアポストシステムを使った臨床例
神経のとられた側切歯にファイバーコアポストをいれて補強したあとに高強度セラミック E-max[冠をその上からかぶせてあります。
E-max冠は透明度が高く審美性にもすぐれておりますが土台が金属の場合にはその金属色がすけて黒ずんで見えてしまう場合がありますがファイバーコアの場合にはその点についてもクリアーしております。
金属の土台を外せない場合には、透けて見えないジルコニアセラミック冠をお勧めします。
違い3:耐久性
健康保険の前歯では金属にレジンという合成樹脂素材が貼り付けて出来ていますので長期的にはすりへってきてしまうことがよくあります.セラミックやジルコニアであれば当然こういったことはおこりません。
素材がもろく表面からはげおちてきてしまった症例
下地の金属が露出してきてしまっている
セラミックの歯と保険のレジン前装冠の1年後の状態
上の写真は実際の患者さんの前歯に、予算の都合上中央前歯2本はセラミック(1本14万円)をいれて、横の3本の歯は健康保険のきくレジン前装冠でいれられたものの装着後1年の状態です。(すべて1年前の同時期にいれられたものです)
1年で黄ばんできており、下の自分の前歯の色と違っているのがわかると思います。
また、金属をベースに使っているので、歯頚部が審美的でありません。どちらが長期的に審美性を保ち続けているか比較してお考え下さい。
違い4:かぶせ物の形に対するこだわり
歯の形は個人個人によって微妙に違っており、その凹凸には大きな意味がかくされています。
その形と位置は乳歯のはえかわり時期に顎の成長とリンクしながらできあがっていくと言われています。歯の表面はたくさんの凹凸で構成されており、この面のことを咬合面と呼びます。
咬合面に対してきちんと作るとどうなるか
歯を虫歯や抜歯などで失ったときに、歯をつくる歯科技工士さんは、通常それ以外のまわりに残っている歯の形を参考にしながら新しい歯をつくっていきます。
この時、健康保険の歯のように大量生産で作られてしまうと、その人に特有な顎の形の動きに調和した咬合面形態になっていないことが多くなりがちです。
そこで私達は、顎の動くデータを、事前にコンピューターで測定しています。
その人に備わっている顎の形態とその動きのデータを正確に把握し、その動きに調和した咬合面形態を作り上げていきます。
そうしますと、勘にたよって形だけ歯に似せてつくられた場合に比べ、はるかに機能的な、しかも顎にとって安全な歯ができます。
咬合面に不具合があるとどうなるか
咬合面形態の不具合によると思われる一般的によくみられる臨床上の症状や兆候としては
- 良く歯を磨いているつもりなのに最近、歯がぐらぐらしてきた
- かたがみになっていてよく肩が凝りやすい
- 前歯がなんとなく開いてきたり、出歯になってきた感じがする
- 歯をいれた後に、いつまでもしっくりこない感じが続いている
- 顎が疲れやすいことが多い
これらは一見噛み合わせと何ら関係なさそうに見えるのですが、非常に関係が深いことが多いのです。お悩みの方はお早めにご相談下さい。
オーダーメードの歯ができる過程
硬いものとして出来上がる前にまず、Waxで歯の形をつくります。
通常のいままでの作り方は、まわりの歯の形に似せてつくっていくだけですがそれでは、歯の溝の角度は浅くつくるのか、深く作るのかは歯科技工士さんの個性やうまい下手によってまちまちになってしまい、形はよくできているようにみえるのに、時として長期的に機能しにくいものとなってしまうわけです。
歯の溝の角度がその人の顎の動きをつかさどる顎関節の角度と非常に密接に関係しているにもかかわらず、そのデータがわからないまま、その形態を何となく周りと同じように作り上げてしまっている…それが現状なのです。
溝をどのくらいの角度でつくっていけばよいかは、先に得られた患者さんの顎の動きのデータをもとに1本ずつ歯の場所によって変化させながらつくりあげられていきます。
長期的に完全に顎の動きと調和して機能し得る歯とはいえません。大臼歯の歯の溝と小臼歯の歯の溝の角度は当然ちがいますし、患者さん個人個人のデータもみな違うわけです。
また歯と歯は上下がかみ合ったとき、点と点によって接触せずに干渉となりその横揺れの干渉の力によって、歯への負担が増大してしまい、知らないうちに歯にひびが入ったり歯槽膿漏が進行していくリスクが増えるのです。
歯の溝だけを飾りのようにつけても、実は面と面どうしが接触してしまっていたり、しっかりと噛み合っていなかったりといったことが健康保険の歯の場合には非常に多くみうけられます。
最近はだいぶコンピューター制御されてきておりジルコニアなどはCAD/CAM技術でけずりだして作れるようになってきておりますが、それでもこうした生体に調和できる概念で咬合面を作れるようにプログラミングしていく必要があります。
機械化されたからと言っても、最終段階では技工士さんがその方に合わせた歯牙ガイダンスに手をかけて調整して仕上げていきます。
Takei.J Sato.S Study on Occlusal guidance and occlusal Plane at Different Ages in Different Occlusion Groups The Bulletin of Kanagawa Dental College 2009;37(1):3-11 より引用